食材

今日ご紹介するのは題名の通り、ホントに旨いムール貝です。

フランスの、ブルターニュ地方、モンサンミッシェルから毎週空輸ではいっています。


あれは今から13年前のことです。

私はイタリアとフランスの国境近く(当時はEUなるものは存在していなかったので、
当然国境警備隊がいてそこまでほんの数十メートルというホントの国堺)のバルジ・
ロッシ(赤い崖)という名の二つ星レストランで働いていました。

実を言うとこの時期ちょうど滞在許可書が切れてしまい、場所柄警察がとても多く、常に
ドキドキの連続でした。おまけに仕事もしているわけですから・・・・

今は多分もっと厳しいだろうと思いますが、違法滞在の外国人を雇った経営者は多額の罰金
という多大なペナルティーが科せられる、という状況でした。

しかしながら私はしょっちゅうフランス側に歩いて渡っていまして、ジャパンのパスポートは
安全、とでも思われていたのか、イタリア側でチェックされた後はイタリアの警官がフランスの警官に
「ジャパン、ジャパン」と、フランスからイタリアへも「ジャパン、ジャパン」と、もう顔パスもの
で両国をまたにかけて、渡り歩いていました。

バルジ・ロッシではパスタ場をまかされていまして伝統的なリグーリア地方の数々をシニョーラ・
ジュゼッピーナから教えて頂きました。

その店はとびっきり新鮮な地元の魚介類が売りの店で20キロ離れたモンテカルロからは
かの有名なアランデュカスやカンヌ映画祭などではシルベスター・スタローンなど世界的な
セレブが集う店でした。

今は時効(?)なので白状しますが、今まで、ただの一度だけ活きたスカンピ(高級手長エビ)を
試しに生きたまま殻をむいて生で食べてしまったのもこの店での想い出です。
(すごい甘みと、ぷりぷりの弾力、素晴らしい香りでした)
あるとき見たこともない小さな小さなムール貝をシェフのアルフィオが調理しているのを
みつけました。日本にいたときからムール貝だけはあまり好きにはなれずにいたのですが
驚いたのは、まずその鮮やかなオレンジ色でした。な、なんて美しい色だろうと思いました。
今までは薄い色のものしか見たことがなかったのですがこれは何か違うな、と感じました。
そしてどんぐりほどの小さな貝殻の中にぎっしり詰まった身のぷっくらしたこと・・・・・
多分今までのムールと違う。と料理人の野生のカンがビビッと来ました。
案の定香りのよさそうです。「ポッソ アッサジャーレ ウンポ?」(ちょこっと味見していい?)
と聞いた瞬間思いっきり口にほおりこみました・・・・・・・・・・



あれから13年前今日は、モンサンミッシェルのA0C(原産地呼称制度で、EUで貝類で唯一、それが
許されている)のムール貝仕入れ、パスタ用のラグー(ミンチのソース)にしています。
このムール貝が初めて日本に輸入されたのは6〜7年前だったと記憶しています。
私は事あるごとにこれを仕入れますが毎回決まってスパゲッティーのソースに仕込みます。
そのたびにあの13年前の衝撃を毎回毎回思い出します。
あの出会いがなかったら日本でわざわざ5倍もの値の張る超高級ムール貝なんて使っていなかったと思います。
今日の仕入れは14キロスタッフ全員でヒモをそうじしてからニンニクと庭にあるタイム、にんにく
白ワインで口を開け、ひとつづつ身を取り出します。
さらにそれをみじん切りにして、香味野菜と一緒にラグーに仕込みました。
その最中10個以上は食べてると思いますが、世界遺産の潮の香りはたまりません。