小嶋です。今パンの仕込みにハマっています。実は今、店の全てのアイテムをもう一度見直して、もっともっと良くしていきたい・・・と考える中で、6年前に自分がイタリア修行から帰国してから、やりたくてもできなかったことや、材料の違いや、日本とイタリアの感覚のズレなどによってうまくいかなかったことなどを再度見直しているところです。その中で、プーリアパンをもう一度作ってみようと思ったのが直接のきっかけです。
 ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、南イタリア、長ぐつのかかとにあたるプーリアで作られるパンで、その土地でたくさん取れるセモリナ粉、オリーブオイル、そしてジャガイモを加えて作る、香ばしくて、しっとりしていて、モッチリしていて、ボクがこの世で一番好きなパンなんです。バターや牛乳などを加えて作るおいしいパンは他にもあると思いますが、素材のそれぞれの持ち味が出ていて、オリーブオイルをつけて食べるとすごく合うんです。それと、イタリア時代のルーチョの想い出のパンなんです。
 1997年、イタリア滞在も半年を過ぎた頃、ボクは中部イタリア、マルケ州カルトチぇットというところにある、「シンポジウム」というレストランを3件目の修行先に選びました。「シンポジウム」はミシュランでは1ツ星でしたが、ボクの信頼するガンベロ・ロッソでは常にイタリアの上位にいて、ゼッタイに行ってみたかった店です。そこはオリーブやワイン畑の真ん中にあり、ラベンダーが咲き乱れ、ハーブや野菜も作っていました。そこのご主人はルーチョさんといい、とっても温かい人柄で、初めて会ったときからすごく親しみを感じました。日曜の夕方、わざわざ駅まで迎えに来てくれ、店でウサギのパッパルデッレをごちそうになり、その後差し出されたマルボロ(禁煙してたのに)のおいしかったこと・・・
そしてすごく忙しい店で、今までいちばん働いたかもしれないぐらい馬車馬になって働きましたが、ルーチョとすれ違うときはいっつもボクにウィンクするんです。初め、この人オカマなのでは・・・という不安があったのですが、言葉がまだあまりわからないボクへの「元気か、がんばれよ!!」というシグナルだということに気がつきました。そこには3ヶ月の滞在でしたが、2年後、ローマ・ヒルトンで600人のお客様を迎えたガンベロ・ロッソのイベントで、偶然再会したときはびっくりしました。広〜いホテルのキッチンで仕込みをしていたボクとルーチョは、お互いに気づき、抱き合ってキス(もちろんホッペです)をしてしまったぐらいです・・・。
 余計な話しが長くなりましたが、ある日そのルーチョが休みを利用して行ったプーリアからお土産として買ってきたのが、このプーリアパンだったのです。それは今まで食べたことのない香ばしさと、しっとりした旨みのパンで、こんなに感動するなんて・・・やっぱりイタリアに来てよかった・・・という思いが頭をよぎったのを、今でも昨日のことのように覚えています。
 そんなプーリアパン、実は少しずつお客に出して反応を聞いたりしていますが、もうすぐ完全にデビューする日も近いと思います。皆さん、楽しみにしていて下さい・・・